仕組み(実務)や法律を理解すると見えなくなるもの

税制には、複雑な仕組みのものがありますが、国際税務や移転価格制度は典型的な例です。税務セミナーで移転価格制度を解説する際には、「取引の価格」を比較するのではなく「利益率を比較する(会社を比較する)」ということが分かれば、一気に理解が進みますといったポイント解説を心がけています。しかし、会社を比較するといっても、まったく同じようなことをやっている子会社がそうそうあるわけではなく、そのような客観的な方法を使って、取引価格の妥当性を逆算して、割り切りの検証をしているだけですよ、というのはなかなか一般の方には分かりずらい仕組みです。(イメージでいえば、所得税の所得計算を、個別の経費性に応じて可否を決めるのではなく、同業者平均の利益率でトータルの所得の妥当性を検証する方法。所得税では使えなくなった計算方法ですが、最新の国際税務では古い方法に戻っているのが面白いところです。※この経費がOKかどうかではなく、〇〇業なら、売上の〇〇%ぐらいまでの経費はOKですよ、といったイメージ)(製造子会社で広告宣伝機能リスクがなければ、平均原価率〇~〇%まではOK、それならば親子間の取引価格は逆算してもOKです、といった仕組みです)

したがって、企業の移転価格税制に関する対応をうまくコンサルするためには、税制の仕組みや実務を理解するだけではなく、実際にやっていく人の「気持ち」や「考え方」を理解することが何よりも重要かと思っています(たとえ、間違っていたとしても)。移転価格の税務コンサルと接していて、正しいことの説明を受けていたとしても、企業がこれまで整理した考え方や本来、どうあるべきか、税務リスクへの向き合い方などをきっちりと勘案しながらアドバイスできていなければ、きっと良い解決はうまれないでしょう。実務を理解しすぎると、かえって一般的な考え方や本来どうあるべきかが見えなくなるといったことがあるのかな、と最近、思うことが多いです。

似たような例で。税務調査では、国税当局から思ってもいないような指摘事項を受けることがあります。よく勉強されている税理士さんや弁護士さんだと、「課税要件事実」の考え方に基づき、どういった事実認定による課税なのか、まったく理解できない、という声もきくことが多くあります。また、憲法に規定する「租税法律主義」の下、明確な税法上のルールがなければ、税務調査で更正決定を行うことはできない、という考え方も根強いです。一方、国税当局の視点で考えると、「課税は公平であるべき」「法律はあくまでも一定の基準を示したもので、グレーゾーンは事実認定で解決すべき」という考え方になります。こころがけるべきは、納税者サイドとしては、形式的な要件のみを重要視するのではなく、実態としても、課税上問題ないですよ!と実態に即した説明を相手(国税)目線できちんと主張できているか、国税サイドとしては、あるべき論だけではなく、事実認定から法律へのあてはめまでのプロセスの詳細な説明、法令・通達の解釈により、こういったケースではこのような結論が妥当です、といった制度趣旨に基づき納税者を納得させるような分かりやすい説明が求められていると考えています。納税者は要件史上主義、国税は理念史上主義、といった感じですが、その間に入る通訳(専門家)としては、双方の考えを理解しながら、上手に答えのない結果を導くといったところでしょうか。

また、法律というのはあくまでも制裁的な線引き(ルール)の指針を定めたものにすぎず、実際には制度の秩序を守ることが行政の役割なのかな、と捉えています。制限速度40Kの道路を走っている60kの車をスピード違反で検挙すべきではないですし、また30Kオーバー(赤切符)の車を見逃すのも許されることではないでしょう。無申告を繰り返すような悪質な納税者や脱税スキームを構築・利用するような納税者は厳しく追及すべきですし、きちんと申告書を提出している納税者の重箱のスミをつついて点数かせぎするような調査や事実認定が甘い状態で多額の追徴課税をふっかけて交渉する恫喝的な調査は行うべきではありません。税務調査とは、税法を守っているかどうかを調べているのではなく、自主申告納税制度といった制度の秩序を守っているのでしょう。