カテゴリー別アーカイブ: コラム

【コラム】税務の判断に答えはない

 税務のご相談を受けていて、税務にセンスがある方とない方を見分ける方法の一つとして、①答えがあるのでは?と考えて〇か×かを判断しようとするか、それとも、②唯一の答えはないけれども自社が採用しようとする方法についての理論づけをするために税務の考え方を整理しようとする(根拠となる規定の確認や他社事例など収集するを含む)のスタンスで、その方の税務に関する力量が分かることが多いです。また、税務とは常にグレーゾーンをどう判断するかの論点が大きく、自社の考え方が税務調査で通用するのか、また自社の考え方を説明した際に税務当局側がどのような観点で違う判断をしてくるかを事前に考えを整理しておく(ロジカルシンキング)しておくことが重要です。経験上、①の判断をする方の特徴は、「自社の考え方が絶対に正しいと信じて甘く判断する」「税理士に〇か×かを質問してくる」感じです。一方で、②の考え方ができる方の特徴は、「答えは探すのではなく作るという感覚を持っている」、また税務当局側はこういった視点で判断してくるのでは?というアドバイスに対して「なるほど!」と謙虚に相手側の思考過程を受け入れることができることが大きな特徴です。やはりビジネスでも、税務判断でも、字頭の良さ、もしくは違う考え方に当たった時の柔軟な思考修正ができることが大きな武器となるように思います。

 また、税務判断に迷う時には、決断に必要な「情報が十分に集まっていない」状況が高いです。①法令通達など、判断に必要な根拠となる規定が100%集まっているか、②事実認定に必要な、そのあてはめを行うための情報が100%集まっているか、③判断の参考となる先例(裁判例・裁決事例)、③その他専門家から収集した他社事例(該当があれば)が集まっているか、を総合的・客観的に振り返ってみることが有用です。

 税務グレーゾーンにおけるリスクとは、裏を返すと、きちんと理論武装ができて、「否認を受ける」かそれとも「税務調査をパスする」かによって、大きく結果が異なることによる、最大のチャンスでもあります。このようなグレーゾーンの見極めについては、目に見えにくい世界であるため、税務に不慣れな方が気づきにくい点ですが、きちんと理論検討を行うことにより、大きなキャッシュをもたらすことができるチャンスといえます。

過去のコラムで以下のようなものもありますので、柔軟な、「ヤワな」思考過程を作るためのヒントとしてご活用ください            

【コラム】税理士によってばらばらの回答を得たとき、どう判断するべきか? | 八幡谷幸治 税理士事務所 (yawatax.com)

【コラム】将棋三手の読みと税務調査対応の思考について | 八幡谷幸治 税理士事務所 (yawatax.com)

 


【コラム】仕組み(実務)や法律を理解すると見えなくなるもの

税制には、複雑な仕組みのものがありますが、国際税務や移転価格制度は典型的な例です。税務セミナーで移転価格制度を解説する際には、「取引の価格」を比較するのではなく「利益率を比較する(会社を比較する)」ということが分かれば、一気に理解が進みますといったポイント解説を心がけています。しかし、会社を比較するといっても、まったく同じようなことをやっている子会社がそうそうあるわけではなく、そのような客観的な方法を使って、取引価格の妥当性を逆算して、割り切りの検証をしているだけですよ、というのはなかなか一般の方には分かりずらい仕組みです。(イメージでいえば、所得税の所得計算を、個別の経費性に応じて可否を決めるのではなく、同業者平均の利益率でトータルの所得の妥当性を検証する方法。所得税では使えなくなった計算方法ですが、最新の国際税務では古い方法に戻っているのが面白いところです。※この経費がOKかどうかではなく、〇〇業なら、売上の〇〇%ぐらいまでの経費はOKですよ、といったイメージ)(製造子会社で広告宣伝機能リスクがなければ、平均原価率〇~〇%まではOK、それならば親子間の取引価格は逆算してもOKです、といった仕組みです)

したがって、企業の移転価格税制に関する対応をうまくコンサルするためには、税制の仕組みや実務を理解するだけではなく、実際にやっていく人の「気持ち」や「考え方」を理解することが何よりも重要かと思っています(たとえ、間違っていたとしても)。移転価格の税務コンサルと接していて、正しいことの説明を受けていたとしても、企業がこれまで整理した考え方や本来、どうあるべきか、税務リスクへの向き合い方などをきっちりと勘案しながらアドバイスできていなければ、きっと良い解決はうまれないでしょう。実務を理解しすぎると、かえって一般的な考え方や本来どうあるべきかが見えなくなるといったことがあるのかな、と最近、思うことが多いです。

似たような例で。税務調査では、国税当局から思ってもいないような指摘事項を受けることがあります。よく勉強されている税理士さんや弁護士さんだと、「課税要件事実」の考え方に基づき、どういった事実認定による課税なのか、まったく理解できない、という声もきくことが多くあります。また、憲法に規定する「租税法律主義」の下、明確な税法上のルールがなければ、税務調査で更正決定を行うことはできない、という考え方も根強いです。一方、国税当局の視点で考えると、「課税は公平であるべき」「法律はあくまでも一定の基準を示したもので、グレーゾーンは事実認定で解決すべき」という考え方になります。こころがけるべきは、納税者サイドとしては、形式的な要件のみを重要視するのではなく、実態としても、課税上問題ないですよ!と実態に即した説明を相手(国税)目線できちんと主張できているか、国税サイドとしては、あるべき論だけではなく、事実認定から法律へのあてはめまでのプロセスの詳細な説明、法令・通達の解釈により、こういったケースではこのような結論が妥当です、といった制度趣旨に基づき納税者を納得させるような分かりやすい説明が求められていると考えています。納税者は要件史上主義、国税は理念史上主義、といった感じですが、その間に入る通訳(専門家)としては、双方の考えを理解しながら、上手に答えのない結果を導くといったところでしょうか。

また、法律というのはあくまでも制裁的な線引き(ルール)の指針を定めたものにすぎず、実際には制度の秩序を守ることが行政の役割なのかな、と捉えています。制限速度40Kの道路を走っている60kの車をスピード違反で検挙すべきではないですし、また30Kオーバー(赤切符)の車を見逃すのも許されることではないでしょう。無申告を繰り返すような悪質な納税者や脱税スキームを構築・利用するような納税者は厳しく追及すべきですし、きちんと申告書を提出している納税者の重箱のスミをつついて点数かせぎするような調査や事実認定が甘い状態で多額の追徴課税をふっかけて交渉する恫喝的な調査は行うべきではありません。税務調査とは、税法を守っているかどうかを調べているのではなく、自主申告納税制度といった制度の秩序を守っているのでしょう。

 


【コラム】プロ将棋士の訓練法と国際税務対応(税務調査対応)

藤井聡太さんが、将棋のタイトル戦挑戦(棋聖戦)されていることで、改めて将棋界が盛り上がっていますね。コロナ渦対応で悲観的なニュースが続くなか、明るい話題がテレビに出ることは喜ばしいことかと思います。昨今の将棋界の変化で特徴的なことは、AI(PC)を使った分析です。コンピューターどうしを戦わせ、さまざまな戦型ごとの想定局面(優劣に分岐ができる)の正解手をいかに覚えておけるかということが、プロの中で活躍を分ける違いになっています。つまりAIが点数という形で正解手を見つけてくれるので、これまでの経験や勘に頼った方法ではなく、アナログからデジタルに分析が変化したといえそうです。(※)一般的に、最近のプロ対戦で流行っている約100局程度の想定局面のうち、いくつかの分岐があり、正解・不正解が分かれる手順、数手をいかに正確に暗記できているか、ということが勝負の分かれ目になっているようです。

税務対応と比較してみましょう。これまでの企業税務というと、経験のある経理担当者(課長~部長)が、これまでの経験から、対応コストをみながらこのぐらいまで対応しようということを感覚で決めていたようなことが多かったと思います。そして、対応できていなかった部分やグレーゾーンについては、税務調査の際に、税務当局と阿吽の呼吸で、決着をするようなケースが多かったと思います。ところが、時代が変化してきて、グローバル化のさまざまな変化に企業がついていけないケース・国税側(税法)も対応できていないケースが増えてきており、税務調査はその時のトレンドで行われるようなケースが増えてきています(2000年台初頭の移転価格課税ラッシュ・昨今の包括否認・富裕層に対する一斉課税など)。また、税務調査官も自身で納税公平性の観点から問題あるかどうかを判断して指摘(決着)するような方法から、判断は国税内部の幹部・審理担当者に判断をゆだねるといったケースが増えていると思われます(ある意味、暴走的な調査は減りましたが、融通の利かない硬直的なケースが増えている印象です)

税務対応で必要なことは、国際税務を入門書や入門セミナーで勉強して理解することではなく、さまざまなトレンドの課税事例から逆算して、対応することが必要となってきています。そのためには、セミナー参加を源泉して実践的なセミナーを上手に選ぶか、いろいろな事例を知っているコンサルタントに知恵を借りることが大切かと思います。将棋の例でいえば、過去の体験に基づく経験則による戦いではなく、PCやAIなど外部を上手に活用し、うまく自身にとりこめた人が頂点に立つことでしょう。ただし、歯医者さん選びなどと一緒で、選び方が上手でないと、結局コンサルなんて役に立たないといった思い込みの原因にもなるので、選び方は大切です。つまり、自分で解決することを高めていく時代から、いかに上手に選ぶかを高める時代へ。税理士も、自身で税務知識を高める時代から、いかに専門書・税務ソフトを選ぶか、優秀な他士業とのネットワークを組めるかの時代です。

7月に大阪商工会議所で開催するセミナーでは、寄附金課税・移転価格課税・タックスヘイブン課税・駐在員課税・新興国での課税など、さまざまなケースにおいてこんな場合は税務調査で問題になるので事前準備しておいた方がいいですよ、このように回答できることが大切ですよ、と実践的なご説明をする予定です。毎年、ご参加いただくような企業様もいて、また参加者の方の理解度や経験値も増えてきたと思いますので、ベテランの税務担当者の方がなるほど~と思っていただけるような玄人ごのみの説明も、今年はしっかりとできればと思っておりますので、毎年リピートでのご参加も歓迎です。(※)最近は、クライアントの数を増やす方向ではなく、セミナー等を通じてさまざまな方に知っていただき、税務調査の際に、想定外の課税を受け困った時点で頼っていただければいいという方向に変更しております。とはいえ、事前にきちんと対策しておけば、こんな大きな話にはならなかったのになあと思う事例ばかりですが(税務申告書を作れば良いという時代から、税務戦略をきちんと準備すべき時代へ)


【コラム】大阪は商社(専門商社)の街

大阪には、専門商社といわれる業態の会社が多いです。お客様のところへ日勤しながら、お客様の困りごとを聞き出して、気の利いた提案をしながら、購買をしてもらうというビジネスモデルです(デパートの外商も近いと思います)。つまり、お客様が必要十分な情報を有していて、直接、メーカーから購入することができるのであれば、このようなビジネスモデルは不要となるわけです。商社にとって必要なのは、最新の情報を仕入れる力と、お客様の悩みごとを察知(洞察)して、気の利いた提案をできる能力となります。

税理士業にあてはめてみます。

会社や納税者が税務処理に迷っていて、どうずれば分からなくなった時に、税理士を頼りにすると思うのですが、税務にはグレーゾーンも多く、税理士によって答えが分かれるということも多々あります。そのような場合、税理士に求められるものは何でしょうか?それは、絶え間ない情報収集力・検討実績・他社事例によって裏付けられた情報量です。答えがでない場合であっても、世の中にあふれる情報の中から、困っている課題に関連する資料等を探してきて、適切に参考情報を提示する。そして、税務当局に認められないと指摘されるリスクが高いのか低いのかを他社事例から判断して、たとえ明確な答えが出ない場合であっても、より合理的な税務処理を選択できるように理論武装(理屈付け)を提案する。これこそが、専門家に求められる情報商社としての役割ではないかと思います。ある程度の地頭の良さは必要かと思いますが、それよりも大切なのは、適切に必要な情報を探し出せる検索力そして経験力です。また、クライアントが税務上の課題にぶち当たりそうな際に、事前に察知して必要な情報を事前に提供・提案してあげる洞察力かと思っています。そして、気の利いた専門商社としての役割を果たすためには「何でも屋ではだめ」で、特定分野の知識を高めておく必要があり、「専門」「特化」して、情報力を高めておく必要があるのです。

税理士に答えを聞くというスタンスから、情報を取るという風に変えてみると、満足のいく活用ができるかもしれません。

税理士の仕事も、記帳・申告業務の代行屋から、コンサル業に変化しています。(しかし、気の利いたAIが出てくると、これも変わるかもしれないですね)


【コラム】大手税理士法人 対 中小税理士法人 対 ひとり税理士の比較

お客様の立場から見て

(大手税理士法人)

メリット :組織内でノウハウ等が共有されていれば、よろず相談的な対応ができる

      ブランド価値があるため、高水準の人材が確保できる

デメリット:運営コストがかさむため割高になる

     担当者は、独立・転職が前提のため、頻繁に担当者変更が多く、その都度会社の説明をしないといけない

(中小税理士法人)

メリット :大手より運営コストを抑えることができるため、手ごろな料金でワンストップサービスを受けることができる

デメリット:大手に比べると、人材の質は落ちる

(ひとり税理士)

メリット  :得意分野に絞っているケースが多いため、専門領域を手ごろな料金で相談できる

 専門分野以外の依頼・相談があった場合には、他の優秀な専門家と連携して、ご紹介・サービス提供ができる(組織内のしがらみがない【ワンストップサービスの欠点】)

デメリット:事業の継続性、相性の良し悪し

 

大学病院 対 街のクリニック 対 専門外来(糖尿病外来専門など)

百貨店 対 ユニクロ 対 専門ブティック

といったところでしょうか。

メインの申告業務などは、大手もしくは中小の税理士法人と契約し、特殊な案件(国際税務相談・税務調査対応・資産税等)は必要に応じて各個人税理士に委託するのが、有用な気がします。

最近は、税理士さん・会計士さん・弁護士さん等から、特殊分野のご紹介が増えています(うちではできないので紹介します、又は一緒にやってくださいなど)。特殊分野の専門家の力量も見極める力は、企業・個人の方よりも、専門家の方々の方が優れています。

これからは、街のクリニックが大学病院を紹介する【手術】、街のクリニックが専門外来を紹介する【特殊分野】時代になってくるのでしょう。


【コラム】専門家として一番嬉しい時

久々にコラムなど。

最近、さまざまな同業専門家の方々から業務支援のご依頼をいただくことが増えてきました。一番、やりがいを感じるのが、やはり税務調査のご支援です。その中でも、一番嬉しい瞬間が、「八幡谷さんにご依頼して、安心して税務調査を受けることができました」と安堵の表情をみせていただく時です。これは、大企業の担当者の方でも、個人事業主の方でも一緒です。

そんな表情を拝見して嬉しい気持ちになるとともに、もっと事前にきちんと備えておけば、こんなに問題になることなかったのに、もっと節税できたのにと思うことは多々あります。

今年もそんな啓蒙活動を、社内セミナー・勉強会などを通じて、お知らせしていければと思います。


【コラム】私の国際税務情報入手法 ver2

前回、記事を書いてからの変更点をアップデートします。

(前回の記事は、以下リンクより)

http://yawatax.com/?p=593

○専門誌の購読【担当者・専門家】(追加)

大規模法人向けの情報については、雑誌「経理情報」(中央経済社)を参考にすることが多いです。

会計と税務がバランス良く特集されており、大規模法人の担当者にとっては、税務通信・TAマスターより有用な記事が多いと思います。

○勉強会への参加【専門家】

税理士さん向けです。

知人の税理士さんが開催されている勉強会です。税理士会の認定単位も取得できるケースがあるので、ご参加させてみていはいかがでしょうか?

当方もたまに講師を担当させていただいております。

・国際税務実務研究会(大阪)

http://internationaltax.jp/

 

 


【コラム】私の国際税務情報入手法

私の税務情報入手方法をご紹介してみます。税務セミナー等でご紹介することも多いですが、ご参考まで。

(担当者…企業の税務担当者向け、専門家・・・税理士・会計士などの専門家向け)

○交流会の開催(グローバルタックスラボ、当方主催)【担当者・専門家】

http://yawatax.com/globaltaxlabo/

参加費は、1回3千円です(たまに無料の回もあります)。セミナーとは異なり、自分の聞きたいことを講師に直接質問できることが最大のウリです。専門家どうしの人材交流的な要素もあります。講師もお話を準備する中で、勉強できるという利点もあります(なので、ぜひ講師としてもご応募歓迎です!)

○ツイッターによる情報収集【担当者・専門家】

 https://twitter.com/globaltaxlabo

大手税理士法人や一橋大学の吉村先生(@masayoshimu)のツイート等を参考にすることが多いです。とにかく情報の速度はピカイチ。私もできるだけコメントしたり、備忘的にリツイートしたりしているのですが、なかなか深く情報分析できる時間は取れていないのが、残念。

○国際税務研究会(税務研究会主催)【担当者】

 http://www.zeiken.co.jp/mgzn/inter_kaiin.html

 年会費108,000円(会員)。最近、少し重要度が下がってきているかも(少し前の方がセミナー充実していた)。企業の方で国際税務初心者だが、何から勉強して良いのか分からない場合に、お勧め。佐和周先生(国際税務)や藤井恵先生(海外駐在員)のセミナーがお勧め。

○日税国際税務フォーラム【専門家】

https://www.nichizei.com/nbs/zeirishi/consulting/member/international/

 年会費54,000円で年12回までメールで相談を受けることができます(太陽グランドソントンの方が回答をくれます)。質問によっては、多少時間がかかることも。たまにしか国際税務に触れない税理士さんや中堅税理士法人さんにお勧め。

○ニュースプロ(ロータス社)【専門家】

http://www.lotus21.co.jp/works/pro/pro_gaiyo.html

 月額12,960円。国税当局の動向などここでしか入手できない情報があるので、いいお値段ですがやめられない。

○専門誌の購読【担当者・専門家】

税務通信・TAマスター(週刊)

税務弘報・税経通信・税理・租税研究(月刊)など

○経済産業省国際租税のレポート【担当者・専門家】

http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/toshi/kokusaisozei/kokusaisozei.html

経済産業省の委託調査費で、主に大手税理士法人の方々が、年1回程度レポートを出しています。特に海外の現地国での課税の動向などは、お役立ち。

書籍

国際税務に関する書籍は、文庫なども含めて、できるだけ購入しています。

 

こうしてみると、それなりに費用・時間がかかりますね。

最後にやはり、私にとっては国際税務の専門家や仲間とのディスカッション等が、何より重要と思っています。やはり自分で書籍等を読んでいるだけやセミナーに出ているだけでは、表面的な知識は身についても、税務に対する考え方(応用も含め)・実践の税務調査でどのように説明・反論するかを会得することは相当難しいでしょう。やはり良いアドバイザーをみつけることと(宣伝?)、ある程度の実務経験の積み上げ(5年~10年程度)が大切かと思います。専門家は情報に対して対価を支払う時代に(旧来型の事務所は規模拡大第一で、新人を育てて戦力にすることに費用・時間を費やす)、企業はノウハウや時間の節約に対して対価を支払う時代に(以前は、社内人材を育成することに費用・時間を費やす、今は転職があたり前となりアウトソーシングの時代ですね)変わってきているのでは。


【コラム】税理士によってばらばらの回答を得たとき、どう判断するべきか?

企業の税務担当者の方から、たまに相談される話を少し。

グレーゾーンの税務判断について、何人かの税理士に質問した際に、税理士によって答えがばらばらでどう判断すればよいのか困るというものです。考え方によって答えが異なるからこそグレーゾーンという言えるのかもしれません。税務調査官と議論するためにも、いろいろな意見を知って考えておくことは大切だと思いますが、実務処理を進める上では一定の判断ルールを持っておく必要がありそうです。

私であれば、もっとも説得力のある根拠を示してくれている意見を採用するという方針にします。できれば、「①文理解釈(法律を文字どうりの解釈する方法)、②立法趣旨、③他社事例(その分野の実務動向を把握している)」の3点について、納得感のある回答をくれた税理士の意見を採用すると思います。裏をかえせば、他の実務事例を参考として示せないようなレベルであれば、参考の実務書読んで答えているとの何も変わらないですね。税理士選びの際のコツにもなると思います。

大規模法人では、税理士等の特性にあわせて、①大手税理士法人(BIG4など、広範な経験を有している)②国税OB(審理畑の方など、実務経験・税務リスクの見極めが豊富)③法律事務所(裁判までの対応を見据えた対応が可能)を使い分けている例もあるようです。もちろん案件の金額感・影響度に併せて、どこまで意見を聞くかという見極めも必要ですし、大手ではタイムチャージでの関与というのが一般的になっている(必要に併せて時間単位で税務相談する方法)ことも大きいと思います。自分の例であれば、②が中心となるかと思いますが、税務リスクの見極め(税務調査で争点が議論になった際に職権で更正処分されるレベルか、そのレベルではないので議論・問題提起で終了するのか、の可能性の大きさを判断する)のが得意分野ではないかと考えています。

企業の担当者の皆様に求められるのは、各専門家から得る回答の精度の見極める力と、その回答にあたって何を根拠にしているかという点の確認が重要ではないかと考えています。


【コラム】将棋三手の読みと税務調査対応の思考について

いつも堅い内容のブログが多いので、今回は趣味の一つである将棋の考え方について、税務調査の対応(備え)にリンクさせ少し書いてみようと思います。将棋がお好きな方なら、分かっていただけるのではないかと思います。

私が尊敬する羽生善治さんの著書の中にこのような記載があります。

「将棋に三手の読みという考え方があります。一手目、自分にとって最善のベストの選択を探します。二手目に、相手にとって最善のベストの選択を探します。つまり、自分にとってもっとも困る一手・選択を考えることです。三手目、それを受けてその手に対して、もっとも有効な手を返します。」

ここで重要なのは、二手目の相手の最善手を知らず知らずのうちに、自分の価値観で読んでしまっているが、それでは最善の読みになっていないということがポイントです。Aさんならこういう手が来るだろう、Bさんならこういう手が来るだろうということをいかに手広く考えることができるかです。私の分析ではこの可能性を先入観なしに、幅広く読むことができているのが、羽生さんの最も優れていて勝ち続けることができている要因ではないかと思っています。20代で7冠タイトルを制覇され、40代半ばでいまだに4冠(現在、5冠目に挑戦中です。)

これを税務調査に対応する際の考え方で応用してみたいと思います。企業の経理担当者の皆様とお話していてたまに思うことがあるのは、一つの税法解釈について、その企業にとって都合のいいように解釈しすぎていることがあるなあと思うことがあります。一つのグレーゾーンの税法解釈をする際には、いろいろな可能性を想定しながら、税務調査官がいろいろな角度から質問してくることに適切に迅速に回答をする必要があります。その際に、相手(調査官)の立場にたって、もっとも自分にとって不利な質問を事前に想定することができるかどうかが、キーポイントになってくると思います。いろいろな角度で考えるということは、多少時間がかかることかもしれませんが、考える時間はどこでもいくらでも可能ですし、そういう可能性を考えること(一種のロジカルシンキング)が好きかどうかという才能もあるかもしれません。

しかし、これはもともとハンデキャップマッチの要素があり、企業の税務担当の皆様はそのような質疑応答を想定することに慣れていないが、税務調査官はいろいろな企業に行ってその場ごとに質疑応答を繰り返し、そのような想定応答について日々訓練されている訳です。自分自身の経験を振り返ってみても、自然と相手の回答を意識(想定)しながら、質問を考えるという習慣が身についているような気がします。企業の担当者は、通常業務として数字の組み立てといった作業を中心とした仕事から、このようなロジカルシンキングといった深い思考を要求される仕事など、多様な業務に対応する必要があります。税務調査対応について、国税OBの税理士が頼りにされるのは、このような点があるのかもしれませんね、、、(一意見です)。